★ 引退試合(後編)
私の予想もつかない発言に戸惑うK氏をよそ目に、私は副将戦に出ようとした。 我に返り、必死に私を止めようとする彼。 そんな彼を心を鬼にして振り払う私・・・。
「止めてくれるな、この不利な状況を打破するには私が行かねばならん」 「大将殿が出撃されたら残った我々はどうなるのです!」 「この絶体絶命の戦局を好転させるためには仕方が無いのだ」 「いえ、私がお先に参ります!」 (※すでに中堅戦まで3連敗、敗退は決定済み) 私はなおも縋りつくK氏を諭すように言った。 「これは上官命令だ」 K氏は愕然とし、後は私の出撃の後姿を見送ることしかできなかった・・・ (※台詞には多少脚色しています)
そしていよいよ本日のメインイベント、大将戦が行われた。 相手はおそらく我が柔道部対戦史上、最も危険な男。 こちらはおそらく我が柔道部史上、最も女に持てた男。 皆の期待が一身に彼に集まる。 何としても敵に一矢報いるのだ。 全敗だけは逃れてくれ・・・(副将戦の結果はあえて割愛します) 気が付けば女子の応援も多い。 多少のジェラシーは感じたが、危急の時だ、許そう。
主審の「始め」の合図で試合が始まった。 K氏が押されているように見える。 (やはり体格差が歴然としているので仕方がないところか) K氏が浮いているように見える。 (と見せかけて返し技か?) K氏の体が見事に畳に投げつけられたように見える。 (立ち技は不利と見て、寝技に持ち込んだか・・・) 主審の手が高々と一本を宣言したように見える。 (どちらが勝ったのだ?) K氏がうずくまったまま立ち上がってこない・・・ (何???) かなり苦しそうだ。 (何ぃ〜〜〜!) K氏に駆け寄る部員達と悲鳴をあげる女子応援団・・・そして事態を飲み込めぬ私。 そのままK氏は救急車で病院へ運ばれた。
ここで私の記憶が途絶える。 その後どのような気持ちで会場を後にし、帰路に着いたか分からない。 しかしこれだけは覚えている。 彼は私の身代わりとなったということ。 鎖骨骨折だったということ。 試合前の私と彼とのやり取りを一切知らないマネージャの、K氏を同情する言葉が私には苦痛だったこと。 彼が私と同じクラスであったこと。
その後、彼は無事退院し登校してきた。 彼が明るくクラスの皆と、そして私に対しても明るく振舞ってくれたことで私は救われた。 胸全体を覆うギブスが痛々しい。 クラスの皆は試合の経過を知らないため、無邪気に彼をからかっている。 彼は私に対して恨み言の一つも言ったことがない。 冗談のネタにすることはあっても。 このすばらしい友人に素敵なあだ名を皆で贈ってあげた。 「ロビンマスク」と・・・
>>第一部完
【あとがき】 「噂の真相」として我々38期生を中心としたエピソードを私の記憶の範囲で書き留めてきましたが、一番書いておきたいネタであり、一番書けないネタがこの最終編でした。 K氏は部員の人望も厚く、おまけに女子にも人気がありましたので、私の中ではM氏(自転車工作員改めセクハラ大魔王)に次いで主将に適した人物だと思っていました。 そんなK氏を上記のような謀略でハメた事実をどうしても隠したいという気持ちもありながらその真相を伝えたいという衝動もありました。 この葛藤を抑えながら、他のネタを書いてきましたが、過日の総会でまたもやこの話題がマネージャから出たときに、もはやこれまでと覚悟を決めた次第です。 当然このネタは他のネタと違い、ばらせば最後、二度と総会には出席できないので出来れば謎のままにしておこうと思いましたが、K氏が2年前の総会を最後に音信不通となっていたので、OB会の趣旨の一つ、「出来るだけ一人でも多く昔の仲間と連絡がとりたい」との一心であえて彼の話題を書く決意をしました。 先日も15年来ごぶさたの部員の一人がこのサイトを発見して連絡をくれました。 K氏についても同様な期待をしています。
噂の真相はとりあえずここで終了します。 また昔の記憶が甦れば更新します。 最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。
2003.9 会長(38期主将)
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