★ 引退試合(前編)
長いようで短い部活生活も6月の県大会をもって3年生は引退となる。 もちろん勝ち進み優勝すれば、その後は全国との強豪との戦いが続くわけだが、我が弱小柔道部にそのような実力があるはずがないので、おそらくこの大会で引退だ。
そもそもこの県大会への出場もよく分からない。 予選で勝ちあがっての出場か、自由参加での出場なのか? 分からないまま、その県大会を勝ち進み、ついにベスト32まできてしまった。 出場校130以上の大会でのベスト32だから、我が部としては大いに胸を張ってよい。 (誰が活躍したのか定かではないが、私でないことは確か) 私の記憶では途中経過が一切抜け落ちていて、いきなり最後となる引退試合しか覚えていない。 もちろん相手校がどこであったかも。
いよいよこれが現役最後の試合になるとは露とも思わず試合の前に整列する。団体戦メンバーは南高最強(のはず)の5人で私は指定席の大将だ。 しかしこの引退試合の主役は私ではなく、出場順4番目の副将のポジションにいたK氏(ロビンマスク)であった。 嗚呼、人生で最も記憶に残る高校柔道生活最後の引退試合の檜舞台で、それまで女にモテまくっていたあの彼があんなことになるとは、誰が想像しただろうか。 と言っても、彼が県大会で失恋をしたわけではないのであしからず。
話を試合に戻そう。 ご存知のように、試合前に先鋒から順に大将まで対戦順に整列し、お互い向かい合って礼をする。 だから対戦前に自分の対戦相手を確認することができる。 (県大会は抜き試合ではなく総あたり戦) そして、相手の体格や顔つきなどから実力を想定して、実際にどう戦うかを頭の中で整理する。 試合時間は1試合4分あるが、およそ1分程度でみな決着がつくので私の場合は出番が最後であるから、だいたい5分くらいの待機時間中に頭の中でバーチャルに相手と戦っている。 だからいつも対戦前に5回は勝っている。(もちろん空想) そして今回もそのようにするつもりだったのだが・・・ なんと私の相手は身長が2mはあるかと思えるほどの長身で、いかにも強そうな面構えである。 さすが県大会ベスト32に残る高校は違う。 (我が部も一応ベスト32なのだが・・・) 他の選手も強そうだ。 このまま対戦すれば瞬殺されるに違いない。
どうする、どうする・・・
頭の中でこれまで相手校の選手と戦っていたが、その相手が自分自身に代わった。 天使の私と悪魔の私。 天使の私は善戦するも、やはり悪魔の私に負けてしまった。 僅差だった。 判定負けだ。
「仕方が無い。ここは誰かに代わってもらおう。」 そう決断した時、すでに中堅戦が行われようとしていた。 「なに!いつの間に!」 考えるのに時間をかけ過ぎて、残りの選手は私と副将のK氏しか残っていない。 これから誰に代わってもらうか慎重に人選をして、説得して・・・と 色々やることがあったのに〜!
いや、考えようによっては話が早いのではないか? もう頼める人は1人しかいないわけだし、人選をする手間が省けるではないか。 まてまて!そんなことより早く頼まないとすぐに彼の試合になってしまうぞ。
「おい、次の副将戦はワシが出るで」 私は時間が無いことに焦り、やんわりと説明をし説得する予定を大幅に省略して、いきなり結論を言ってしまった。 「???」 K氏は混乱したに違いない。 そう、団体戦では出場順を後から変えることが出来ないのだ。
>>後編に続く
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